この窓のこの角度からの景色には世界でいちばん詳しくいるね

太田垣 百合子と立野 由利子の発行したZINE『この窓のこの角度からの景色には世界でいちばん詳しくいるね』の続きです。

5月26日(108)

百合子さま

5月26日、金曜日。
くもりです。最近はたいてい午後がぼーっと眠たい。

何から書こうかな。
そうそう、circleに行ってきました。初。
家からバスを乗り継いで2時間ちょっと。道中、真っ平らな埋立地の広い広い空と青い水をバスの窓から見ていると、よその国に来たような気持ちでした。
羊文学の『マヨイガ』を聴いてぼろぼろ泣いた。
「言葉よどうか いつもそばにあり これからの奇跡に全部形を与えてください
そうして君は小さな幸せ 宝箱いっぱいに集めて 世界を愛してください」
文字にすると陳腐な気もするのに塩塚さんの声で歌われると祈りのようで泣いてしまう。
外だから、歌っている人と聴いている私たちの上を飛行機が通り過ぎたり、とんびが悠々と飛んでいたりしました。

東京では、友だちと会ったり、好きな写真家の個展に行きました。
昔住んでいた街のホテルに泊まったりもしましたよ。
東京、たいていどこを歩いていても彷徨っているような気持ちになるけれど、昔住んでいたところだけは、へっちゃらでホッとする。道が広くてぼーっと歩いてても人とぶつからないところが好き。

最近、表に出す出さないにかかわらず、怒ってばっかりだな〜。「これは怒っていい!」とぷしゅぷしゅしてる自分と、それを少し離れたところからややうんざりした気分で眺めている自分がいます。
狭い水槽で暴れているような感覚なんよね。
どれだけバシャバシャ泳いでもいい、大きな場所に行くべきなんだろうな。

庭のあじさいが早々咲いて「5月待って〜〜〜」と見るたびに心の中で叫んでます。つつじの花(うちのは遅咲き)を見るとまだ終わってないよねと安心できる。

土日はのんびりします。
ではまた。

由利子

5月2日(107)

由利子さま


5月2日、火曜日。
とってもいいお天気だったけど、空気はひんやりしていました。
先々週の寒暖差で少し風邪を引いてしまって、以来ずっと鼻がズビズビです。


この春はsportifyのプレイリスト「sad girl starter pack」を家でずっと流していました。
友達が、iphoneブルーハーツやらクロマニヨンズやらのプレイリストを入れてくれたので、最近の通勤中は専らそれを聞いています。表参道に着く少し手前から爆音でイヤホンセットして気合い入れるのが常。


東京いらっしゃってたんですよね!谷川さんの絵本展以外、どこに行かれましたか。
おすすめの場所、間に合わずすみません…


わたしの頭も、ぼーーーっとしています。今に始まったことじゃないけど…
なにをしても、少し満たされない感じ。こんな時は本当は何にもするべきじゃないのかも。西さんの新著を読んで、西さんのサイン会に行ってから、あてられたようになってしまっている。もっと、傷ついたり怒ったり、しないと反対側にも針は触れないんかな、なんて思っております。


明日からゴールデンウィークです。
ライブに行ったり、高いところに行ったりします。
頑張るどん、5月。


百合子

4月11日(106)

百合子さま

4月11日、火曜日。
晴れてて曇っていて、暑くて寒い。
藤の花も咲いているし、梅の実もなりはじめて、ときどきはえらく暑くて夏が遠くで歩き出したのを感じます。

お花見はかつての通学路の桜を何回か眺めたのと、会社の昼休みに同僚と近くの公園で桜を見ながらご飯を食べましたよ。
桜と紅葉は毎年見ているはずなのに何度でも見たくなる。

春は町がウキウキしているから通勤のバスに乗っている時間が楽しい。
でもどんな音楽を聞けば良いのかわからない。春、何を聞いていますか?

最近、頭がぼーっとして、でもイライラすることが増えてなんだかよくない。
自分も周りもあまり変わった気はしないけど、窮屈に感じ始めたのかな。
映画やドラマを見ても心が動きづらくなっている気がします。
学生の頃はこういう時、本を読んで乗り切っていました。そうそう、いま手元に図書館で借りた『雪の練習生』と『すべて真夜中の恋人たち』がありますよ。
多和田葉子、はじめて読んだけどユニークですね。

来週末から5日ほど東京と長野に行きます。長野、行ったことないから楽しみです。おすすめの場所などあったら教えてください〜

ではまた。

由利子

3月23日(105)

由利子さま

3月23日、木曜日。
東京はちょうど今週桜が満開です。今日は、花散らしの雨が降っています。


『星のかがやきよ』、聴きながら書いてみています。
仲良い人の好きなものに触れたら「確かにこれはこの人の一部になっていそう」とか思うから、愉しいですね。ちょっとアイドルの曲っぽいですね。


お花見しましたか?

わたしは、桜の開花がぴったり、映画のポスプロ作業で東映の真っ暗部屋に篭りっきりの週にぶち当たって、誰も悪くないのを分かっていながら、一人でグレていました。一年で一番好きな空気やのに、ゆっくりお花見出来ひんし、満開になったと思ったらずっと雨やし。でも、なんやかんや、早起きして出社する前に近所の川沿いの桜を見に行って一人で三色団子食べながら歩いたり、夜中、池袋から東上線乗って最寄り駅で降りずに一駅分余分に乗って歩いて帰ってきたり、合間で必死にお花見してます。お花見への執着。満開の桜の木は、綺麗だからというより、狂気じみているから、好きです。木の肌に鼻をくっつけて嗅いでまわり、花びら一片食べてみました。味も食感もレタスでした。


あとは、WBCの日本戦を全部観ました。こんなの初めてです。アマゾンプライムで、移動中も観れたから気軽でよかったんかも。準決勝、日本の逆転サヨナラ勝ちのシーンは電車に乗っていたけど思わず大きな声で「やったー!」と叫んで拍手してしまいました。村上の笑顔見て泣きました。「意図的でないもの」を受け取るの、良かった。最近、表現物を受け取るのに疲れてしまったみたいです。なんも響かん。なんも響かんのに、詩や小説を音読すると、勝手に涙出る。


詩歌、自分と切り離してみようと思って筆名を考えました。「わたしにはこれしかない」と思い込む、信じる強さが必要なんやと思います。由利子さんはわたしよりずっと先にいはる気がする。


今日も今日とて夜逃げしたい百合子です。


百合子

3月1日(104)

百合子さま

3月1日、水曜日。くもりのち土砂降り。
2月が去ってしまいました... さびしい。

28歳になってからずっと慌ただしい。
はじめに聴いた曲はZARDの『星のかがやきよ』です。坂井泉水さんはずっと憧れ。

いきなりですが、私は私のためにしか文章を書きたくないな、とわかっちゃいました。
正確には、わかってたけどもう言っていいと思えるようになりました。
でも私は文章を書いてお金をもらっているから難しいところです。

何かを考えるにはいかんせんキュートが不足しています。
今朝、庭の梅が咲いて(結構遅咲きです)やわい雪のような花びらとか、桃の花みたいな淡いピンクとか、ちゃんと写真に残しておきたいなと思いました。
カメラを持ってフラッと散歩したいな。

昨日会った小学生に私のサインが100万円で売れるように頑張ると宣言したので、がんばります。自分は何よりも自分のために生きているという頃を忘れたらいかん。

また朗読やりましょ!

ではまた。

由利子

2月6日(103)

由利子さま

2月6日、月曜日。お誕生日おめでとうございます!
東京は晴れです。そちらのお天気はどうですか。


さっき、くどうれいんさんのネプリを印刷しに外に出たら、空がくっきり澄んでいて、あまりにも気持ち良すぎたので、部屋に戻ってきてもダウンを着たまま窓を開け放って外気を横頬に受けています。足は寒い。


28歳最初に聞いた曲はどの曲でしたか。


川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』が全米批評家協会賞の最終作に残ったニュースを見てから、およそ10年ぶりに読み直しています。ひかりとひたむきな恋愛が描かれた、ただ綺麗な物語だったように記憶していたのに、今読むと、全く違う感情(しかも少しドロドロしたような)が、胸の中で蠢くのを感じます。孤独も嫉妬も遠ざけようとすればするほど怖い顔をしてこちらに迫ってくる。校閲者で「ふだん本は読まない」主人公が描写する、人・人との間にあるもの・空気のこと、思わず「あっ」と同じ行を数回読み直してしまうくらい、見慣れたものがきちんと見慣れた言葉で甘やかに並んでいて、こんな風に世界を捉えられたらいいのに、と心底羨ましくなります。


この前わたしたちの朗読スペースを聞いてくれていた方が「二人のゆりこさんの朗読していたスペースが素敵だったから、届いたばかりの詩集を音読している」とツイートしてはって嬉しくなりました。定期的にやりましょ〜ね。


由利子さんにとって今までで一番キュートな1日・1年になりますように。


百合子

2月1日(102)

百合子さま

2月1日、水曜日。
晴れてました。家の瓦やお店の壁、橋の欄干に当たる光がずいぶん春めいてきました。陽光。

2月になってしまった...!1月は、13月でした。動き出す前の、朝起きて布団の上でうずくまって頭を枕に押し付けたり、日差しの眩しさに頭を揺らしちゃう感じ。2月が誕生日のせいか、この辺からちゃんとやればいいと思っている節がある。ちゃんとやります。

もう少しで28歳。臆しています。27歳、ほんとに終わっちゃって大丈夫なんだろうか?
やれなかったことばかりが目についてしまう。ロックスターは27歳で死ぬ、みたいなんに影響されている気もする。とにかくできることから、と思って、スマホと、靴と、服を買いました。新しいワンピースに合わせるためにブーツも買うかも。

春にならないうちに新しく古典の翻案を進めます。
朗読やらなんやら、また近々やりましょう。
ではまた。

由利子