この窓のこの角度からの景色には世界でいちばん詳しくいるね

太田垣 百合子と立野 由利子の発行したZINE『この窓のこの角度からの景色には世界でいちばん詳しくいるね』の続きです。

10月27日(115)

由利子さま

10月27日、金曜日。
とっても時間が空いてしまって、すみません。過去最長空白…。


8月からずっと怒涛の日々でした。
映画のロケの準備が詰まっていた中、祖父が亡くなり大阪へ帰り、すっかり落ち込んでしまった自分の心をゆっくり抱きしめる時間も余裕もなく、ロケに入り、一ヶ月東北へ。
なんというか、今あまり、何を書いたらいいのか分からないのですが、とりあえず、今日は、現像に出していた写真を取りに池袋に行き、歩いて帰ってきて、整体へ行きました。

一ヶ月の東北缶詰ロケ(途中一瞬帰京しましたが)で、体を労わらなかったせいで頸椎椎間板ヘルニアになってしまい、関東ロケを休んで、自宅で療養中です。療養と言っても、薬を飲んでゆっくり寝て、整体へ行くだけですが。3日連続で行って肩周りをほぐしてもらったおかげで、少しずつ首が回るようになりました。せっかくここまで頑張ったから、最後までやり切りたかったのが本音です。忙しない日々でも、現場で出会えた人たちはみんな歳が近くチャーミングで、毎日無駄話をするのが楽しかったです。美味しい海の幸もたくさん頂きました。


そんなこんなだったので、先月SPBSさんから出したミニ歌集も、満足に宣伝できないまま、でした。本当は、あちこち献本とかしてみたかった。『あんろろめら銀河』というタイトルで、歌人ゆりこパート1!な歌集です。由利子さんにはすでにユリコ通信やなんやで読んでもらったことのある歌ばかりかも。でも、並べ順に初めてこだわってみたので、もし機会があれば読んでもらいたいです。


先月リリースされてからずっと、君島さんの新しいアルバム『no public sounds』がおともです。東北でも、「賛歌」を聴きながら夜道を歩いたりランドリーの時間をやり過ごしたりしていました。一番大事なのは「沈む体は空へ溢れて」です。


もうすぐ11月、いちばん好きな月です。しっかり心も身体もやわらかくして、好きなものにたくさん触れたい。


由利子さんの近況、いかがですか。(自分で返さずにおいてこんなことを聞く)


百合子

8月12日(114)

百合子さま

8月12日、土曜日。
お盆休み、いかがお過ごしですか?

近ごろは車に乗ることが多くて紫外線を浴びに浴びています。
昨日は、友人と温泉に行ってまったり。
お湯がとっても良くて、久しぶりに肩の力が抜けました。
花火見たいよねと言いながら帰っていたら、2つも!花火大会に遭遇して、できるだけ近くに行こうと、全く道がわからない、しかも田んぼばかりの暗い道を友だちの運転で走りました。
途中、コンビニの駐車場に車を停めて、外に出て花火を見上げているたくさんの人を車の窓から見て、みんながいい気持ちで空を見上げているのってなんだかいいなと思いました。
楽しかった!走りながらだから写真は全部ぼけぼけですが、頭の中にはくっきり残ってます。忘れないと思う。帰ってからスーパーで買った手持ち花火もやった。
今日は海を見たし、この前は川遊びもして、なんだかんだ夏を満喫しています。

暑さ対策、諦めているフシもありますが帽子、日傘、サングラス、UVカットパーカー、冷たいお茶です。あと、早起きして本読んだり、ちょっこと仕事終わらせたり。

南極ゴジラ、とてもいい公演だったようでなによりです。
人の良いところを引き出したり、楽しい空間を作ったりできる人ってほんとうにすごい!尊敬します。
即興の詩、読みたいけれど、その場のための、場に生きていた人たちのためのものなんだろうな、とも。

自分でハードルを上げていって〜、は私も本当は同じタイプです。仕事で締め切り慣れした体質と、日程が決まっている出展イベントの相性が良くて、出すと決めたら出せるようになりました。
それを繰り返していたら、自分はそれなりのクオリティのものはちゃんと作れるということがわかったので、次の目標はもっと長いものを書くことです。

この前、しんどいことが続いて心が張り詰めてたけれど、仕事終わりに高校時代の部活の友だち何人かと集まったら、あまりに当時と空気感が変わらなくて、その人たちのおおらかさのおかげで、心があっという間に柔らかくなって泣きそうでした。まだ何も失くしてないし、私ってツイてる。

お盆休みは残り3日。涼しい部屋で本を読んで過ごします。
小島信夫がおもしろいです。

では、また。

由利子

8月7日(113)

由利子さま


8月7日、月曜日。今週からしばらく、天気がよくないみたいです。
昨日はお天気雨で、久しぶりに虹を見ました。


先月、会えてうれしかったです!ある意味お互いにとっての、ローカルな場所で…
マスターがあんまりにお喋りだから、由利子さんと話したのか、マスターと話したのか、分からなくなるくらいでしたが、とっても愉快な時間でした。
最新のZINEも、ありがとうございました!


身の危険を感じるほどの暑さが続いていますが、どうやって凌いでいますか。
わたしは、この前の週末は南極ゴジラの本公演、その前はフジロックで、身体がくったくたになっております。もちろん心地よい疲れですが。

フジロック3日間は、ちょっと異様な体験でした。「あ、音楽ってなんにもないところから生まれるんや」みたいな当たり前のことを、初めて肌と内臓で感じたというか…。普段イヤホンやなんやで聞いてるのって「写真」のようなもんなんやな、とも。海外アーティストのステージを浴びたのもほとんど初めてだったので、たぶんずっと口開いてました。YUKIちゃんを2列目ドセンターで観れて、跳ねて踊って泣きました。かっこよかった。永遠の憧れ…。


南極ゴジラの公演は、期待通りめちゃくちゃ楽しかったです。わたしの役割は、幕間のラジオと、後半部分の語り、即興での短詩作りでした。ラジオと語りは、原稿やお便りを読めばよかったので、噛みさえしなければ大丈夫だったのですが、即興詩作は…毎回すっごく焦りました。幕が開いてから考え始めて、劇のあるシーンでみんなに読み上げてもらうまでに完成させる、本当の即興を自分に課してみてました。なんとか、完遂できました。普段から、南ゴジのみんなのファンなので、4日間ずっと公演見守れたの、贅沢でした。


今回気付いたこと、わたしは自己肯定感低いのに中途半端に完璧主義(完璧なんてないのに)やから、自分の作ったものに対してがっかりしてしまう、んやってこと。ビギナーズラックで良い作品(と思えるもの)をつくれて、出だしはスラスラなのに、どんどん書けなくなって「一番最初につくった詩/歌は、すんごくよかったのに…」って落ち込んでいくけど、読み返してみたらそこまで変わらないんですよね。自分でハードルを上げていって、越えられなくなってつくることも諦めちゃう、みたいな。まさに短歌が今そんな状態です。


フジロック行って帰ってきて、変な話やけど、自分の「フィロソフィー」みたいなものはいったいなんなんやろう、と考え始めました。文体ってまさにその人の哲学じゃないですか?これきっと後から見返したら恥ずかしくなるんやろうな…


今週末は大好きな友だちと水族館に行きます。予定があえば、お盆は実家に帰ります。花火見たいな。


百合子

 

7月18日(112)

百合子さま

7月18日、水曜日。朝方に雨。湿気でムシムシ。

近ごろは、雨が降るかおそろしく晴れ渡っているかの二択です。
年々、夏が陰湿で凶暴になっている気がします。夏、好きなのにな。

『違国日記』、数年前に2巻まで読んでやめちゃいました。なんだか、全部言葉で説明され過ぎている気がして、私がマンガに求めているのはこれじゃないなと思ってしまった。
今読んだらまた違うことを思うのかな。ヤマシタトモコは『花井沢町公民館便り』が好きです。

最近、手持ち無沙汰になると大学時代から使っているアドレスのメールを整理しています。教授やサークルメンバー、就活の時にお世話になった方とのやりとりやら、クリニックや電気会社からのお知らせやら... 私が相手に送ったメールも目に入ってきて...薄目でしか読めませんが未熟なんだけどがんばろうとしているやる気は伝わってきて...ぞこぞこしますよ。
人って変わるし人生意外となんとかなっていくよね、と思えることだけが救い(ほんとに?)
ケータイの引き継ぎが下手くそなので、ガラケーはもちろん、スマホになってからも写真のデータやらLINEのトークやら失いまくってます。
でも、やりとりの相手は私がもう見ることのできないメッセージを見ることができるわけですよね。おそろしい。

忙しないときこそ、といっぱいご飯食べてたくさん寝ています!
今週末会えるのが楽しみ!

ではまた。

由利子

7月3日(111)

由利子さま


7月3日、月曜日。暑い、日差しが熱い。
最近、強い光に弱くなっちゃって、サングラス必須です。


zine発行、年イチペースですか?すごい。
前に電話した時もお話しましたが、10zineの規模感がとても素敵だな、と思って見てます。東京は、作り手が多すぎて、目が回ります。
変なことを言うのですが…一人で書いたり詠んだりするのが好きなこと、忘れちゃいけないですよね。「読んで読んで」って言えんとあかん自分に悩んでしまう時がある。


写真、わたしもノーマルカメラ派です。友だちがアプリを使って構えてくれる時は一緒に写るけど、自分では使いません。そもそも、しっかりめのお化粧を施されるだけで、落ち着かなくなる人間なので…。でも面白いなと思います。画面の中でいくら盛れても、現実世界の自分は変わらないのに。流れて消えていくものと、残るものとへの気持ちの違いなんですかね。瞬間的にでも「なりたい自分になる」って、自己肯定感とか自己認識のために大切なのかも。友だちのことを思い出す時、大体頭に浮かぶのは写真に残った顔だし。他人の中の自分、の欠片の一つになり得るものを自分でコントロールしてる、みたいな感じなんかな。セピアとか、色調が変わるフィルターは好き。


昨日は、荒井良二さんの展覧会「new born いつも しらないところへ たびするきぶんだった」に行きました。色で、光で、溢れていて、ここ最近見た展示・触れたアーティストさんの中で一番「この人みたいになれたらよかったのに」と思いました。この人みたいに世界を受け取って、絵を描けたら、色を塗れたら、と…。山はピンク色でオレンジ色で緑色で、金色だ。

なんだか頭の中が上手く整理出来ないです。とにかく、人が多すぎる。喋るのが難しすぎる。早口で、高圧的にまくしたてる人のこと、今迄以上に苦手になってます。早口で言葉を投げられたら、「気づいてください…!」の祈りを込めて、丁寧に投げ返すようにしてみています。が、初球で受けたダメージを引きずる。書き言葉なら、こんなに(意味もなく)つらつらと書き続けられるのに。一人暮らしも五年目になって「誰かと長期的な関係を築くための努力」を怠っているゆえなのか?とも思う。ヤマシタトモコさんの『違国日記』にハマっています。姪っ子を引き取って一緒に暮らすことになった、小説家・槇生ちゃんの台詞が、今のわたしの心フレンドリーすぎる。アプリでも読めるので、もし、余裕があったら由利子さんに読んでみてほしいです。


村上春樹の新刊『街とその不確かな壁』を読み始めました。これで、上手く沈められればいいな。


ブログとか、短歌とか、書けなくても、この日記は自然に書ける気がします。
酷暑始まるので、しっかりご自愛。


百合子

6月28日(110)

百合子さま

6月28日、水曜日。朝方は雷が鳴り、激しい雨が降っていましたがいまは曇り。
ムシムシしますね。

ここ数年出しているzineのイベントが終わりました。今回は、写真のzineを新しく出していました。自分に近すぎる、狭いことがらを撮影していたのでどうなるんやろうと思っていたのですが、いくつかありがたい感想をいただけてひとまずホッとしています。
他の人たちが出しているzineを眺めていると自分が今何を求めているか見えた気がする。あと、うっすら自覚していた、食を楽しめている人へのコンプレックスをちゃんと認めました。(笑)←あえての(笑)です。

いきなりですが、友だちと遊んでいて写真撮ろう〜となったとき、自動で顔をきれいに映してくれるアプリ使いますか?
この前、友だちとの写真をノーマルカメラ(この呼び方も初めて知った)で撮ろうとしたら、友だちのスマホに入っていたそういうアプリで撮ることになり... たしかに肌がきれいに見えるけど、目が大きく見えるところとか輪郭が滑らかすぎるのとか、なんだか変な気分になりました。嫌ではないのですが、なんか、なんだか...

カメラのフィルムがまだ余っているので夏の間に使い切ってしまいたいな。何を撮ろうかな。旅先だと気が張りそうだから身近な風景を撮っていきたい。

最近ずっと出ずっぱりだったので土日は家にこもって本を読もうと思います。部屋も片付けないとな〜

東京だからこそ出会えるたくさんのものや人を大切にしてください。

ではまた。

立野

6月22日(109)

由利子さま


6月22日、木曜日。日々が過ぎるのがあっという間で、怖すぎます。
ここんとこずっと晴れていて、今日はやっと梅雨らしいシトシト雨。


この前は久しぶりに電話でお話し出来て、嬉しかったです。


「くもをさがす」のサイン会で西さんに渡した手紙へのお返事が届きました。
手紙はいつも送ったっきりで、書く時間グッとその人に伝えたいことだけ考えて書いて、封を閉じたらまるっと忘れるのですが、それが、西さんには叫びとして届いたみたいです。
お返事の内容から推測する(自分の手紙やのに)に「わたしはひねくれてしまってそこから程遠くてつらいが、でっかいまっすぐな愛がだいすきで苦しい」てなことを書き殴っていたようです。それに対して西さんは「あんたは真っ直ぐに生きてるし、充分に愛ある!」というようなことを力強く書いてくれはってて、また、でっかい愛で、だいすきで、苦しかったです。

ほかにも沢山、つらつらつらつら書いた気がします。なんやわたしは、西さんからお返事なんか貰ったら世界が変わってしまうかもしれんと思っていたけど、世界は全く変わらんくて相変わらず突然全てが愛おしくなったり逆に全てを傷つけたくなったりするままです。「愛」とかやっぱり「ケッ!」と思ってしまう。そんなん信じひんわ、と思う自分もおる。でも間違いなく一生大事にできる、お守りができました。


毎朝起きるのがとってもしんどいです。冷蔵庫が壊れました。来週くらいに新しいのが届く予定です。

これからまだ何回も色んなものが次々壊れたり、だめになっていったりするんやと思ったら、生活をしていく自信がなくなります。でも、大好きな友達と会ってホコホコした気持ちで歩く帰り道とか、涙出るほど笑いこけられた友達のおもろい劇を観てた時間とか、そういうのを集めて、頑張ります。


「つねに自分がいるのは『いま』で、美しいと思うもののそばにいることを選びつづければ、美しいものがともにあるいまがつづくのか。どの時代でも、宇宙のどこにいても。」雪舟えまさんの短編小説(すみませんタイトルがパッと出てこない)より。


百合子